産後の不調に効く漢方と養生法

つらい「産後の不調」改善-漢方医学、西洋医学での対処法

無理をせず、体力回復に努めましょう



  • 出典:株式会社法研「女子漢方」
  • 著者:矢久保 修嗣 日本大学医学部附属板橋病院 東洋医学科 科長
  •    木下 優子 日本大学医学部附属板橋病院 東洋医学科 外来医長
  •    上田 ゆき子 日本大学医学部附属板橋病院 東洋医学科 救急担当医長


漢方医学の考え方

症状

出血を伴い、体力を消耗する出産後は、気や血を消耗して、気虚(き きょ)や血虚(けっ きょ)の状態になりやすいと考えています。気虚が出ると疲れやすくなりますし、血虚になれば貧血になったり、立ちくらみが出たりします。白髪や脱毛が起こるのもこのためです。

疲れやすくなったり、本当は食べなければいけないのに食欲が出ないのは、気虚の症状のあらわれです。このとき、同時に、気がうまく巡らない気滞(き たい)や瘀血(お けつ)の状態も起きやすくなります。出産後、子宮や膣から、中にたまっていた血液や胎児を包んでいた卵膜、子宮内膜のかけらが出血する悪露(お ろ)が続いたり、胎児の成長とともに大きくなった子宮が、出産後、収縮をくり返しながら元の大きさに戻っていく子宮の戻りが悪くなったり、おなかが痛くなったりするのはそのためです。

また、年月が経ってから、出産が原因の不調があらわれる例もあります。出産後、ときどき腹痛が出るようになり、あまり気にしていなかったけれど、10年以上経ってから、腹痛が慢性化するのです。産後のケアは大切なので、無理せず、ゆっくりと元の生活に戻していくようにしましょう 。

漢方処方

*産後の諸症状を回復させる処方

産後、もっともよく使われる漢方薬は、芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)です。瘀血と血虚を改善し、気の巡りをよくする効果があるので、子宮の戻りや、悪露の改善、マタニティブルーを軽くする効果があり、産後のすみやかな回復に有効です。多くの患者さんに内服することをおすすめする代表的な処方です。

疲労感が強く、貧血がひどい場合には、十全大補湯(じゅう ぜん たい ほ とう)を処方します。俗に言う"産後の肥立ちが悪い"ときの処方です。貧血が進むと、母乳の出も悪くなるので、このような場合にも使用します。

十全大補湯は、脱毛にも効果があります。しかし、出産後の脱毛や白髪は、多くの人にあらわれ、たいていは回復するので、それほど気にしなくてよいでしょう。

このほか、脱毛や貧血には、芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)を用いることもあります。これらの処方を使い、症状が落ち着いたら、芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)に変更する場合があります。

*マタニティブルーで不安やイライラがある場合

もっともよく使われる漢方薬は、芎帰調血飲です。それでも落ち込みが強い場合には、香蘇散(こう そ さん)を、イライラが強い場合には、女神散(にょ しん さん)を併用します。

それ以外に、もともとあがり症で、周囲に気を使うタイプは抑肝散(よく かん さん)を。不安が強く、怖い夢を見ることがあるなどという場合には、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)などを処方します。

*子宮の収縮による痛みが続く場合

子宮の収縮が強いのは、回復のためにはよいことですが、痛みが強い場合には和らげるために芍薬を含む処方、当帰芍薬散などを使います。

*乳腺炎で母乳がつまってしまう場合

葛根湯(かっ こん とう)が有効です。ただし、マッサージなどとの併用が必要な場合が多いので、母乳マッサージや母乳外来も受診するとよいでしょう。

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西洋医学の考え方

 母乳をあげることで、子宮が収縮して戻りやすくなります。


症状

妊娠、出産によって母体に起こる変化から、元の状態に戻るまでの期間を産褥期(さんじょくき)(6~8週)といいます。子宮や膣は出産後、すぐに元に戻るのではなく、徐々に収縮して小さくなり、それに合わせて、膨らんでいたおなかも徐々に元に戻っていきます。

子宮の収縮は、赤ちゃんが母乳を吸ってくれることでより早まります。この収縮によって、生理痛のような痛みがある場合があります。

同時に、悪露(お ろ)と呼ばれる経血のような血液や粘膜が混ざったおりものが出ます。悪露は、2~3日くらいまでは多く、赤い色をしていますが、その後、だんだん色も薄くなり、1ヵ月程度でほとんどなくなります。もしも、出血がいつまでも続くようなときは、婦人科で検査してもらいましょう。

また、産後は精神的に不安定になりやすく、ちょっとしたことで落ち込んだり、イライラしたりすることがあります。"マタニティブルー"と呼ばれ、ホルモンバランスの急激な変化や、出産後の疲れ、育児や家事のストレスや不安によって引き起こされるものといわれています。

しかし、マタニティブルー自体はほとんどの人が経験するもので、特別なことではありません。一人で悩まず、周囲に相談したり、家族に手伝ってもらったりするようにしましょう。症状がひどいと、不眠やうつに繋がる場合もあるので、専門家の診察やカウンセリングを早めに受けることが大切です。

いずれにしても、産後1ヵ月ほどは、無理をせずに安静にすることです。その間に、体力が回復したら少しずつできることから始め、日常生活のペースをつかむようにしましょう。"


赤ちゃんも漢方薬を飲める?



漢方薬は、子どもからお年寄りまで幅広く使われるお薬です。もちろん、赤ちゃんでも、風邪や湿疹、夜泣きなどでは、よく処方しています。風邪の場合の漢方薬は、葛根湯(かっ こん とう)、麻黄湯(ま おう とう)、麻杏甘石湯(まきょうかんせき とう)、麻黄湯と桂枝湯(けい し とう)を半分ずつ使うなどします。湿疹がある場合は、治頭瘡一方(ち ず そう いっ ぽう)、夜泣きには、抑肝散(よく かん さん)といった具合です。

漢方薬は、「飲みにくくて、子どもは飲まないのでは?」と言われることがありますが、意外と飲んでくれるものです。

また、妊娠中に漢方薬を飲んでいたお母さんから生まれた赤ちゃんは、漢方薬に抵抗が少ない印象があります。

うまく飲まないときの飲ませ方は、ミルクを飲んでいる赤ちゃんならば、少量のお湯で練って、ほっぺたの内側に塗り、そのあと、ミルクや母乳を飲んでもらいます。離乳食が始まっている場合は、ゼリーやヨーグルトに混ぜてもよいでしょう。乳酸菌飲料に混ぜて飲んでいる子もいます。

ちょっと変わった飲ませ方では、ママが漢方薬を飲んでから母乳をあげると、赤ちゃんが母乳の中の漢方薬を服用することになる、継母乳投与という方法もあります。味の好き嫌いもなく、飲ませやすいです。

ただし、漢方薬にも副作用はありますので、小さなお子さんに使うときには、必ず医師や薬剤師などの専門家に相談してから使ってください。


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